最近読んだ本

  • 野矢茂樹 / 無限論の教室
     無限についてのふたつの考え方、実無限と可能無限のふたつを対立させつつ、ゲーデルの不完全定理などが数学的にもつ意味を説明してあります。私は非常に面白かった。論理学の入門書ではだいたいゲーデル不完全性定理の証明が最終課題となっているわけですが、論理学を学んでいるとついつい証明の技術的側面ばかりに関心が向いてしまい、それが証明されることが何を意味するのかっていう、より大切な部分が手薄になりがちなので、まさにその点に焦点を当てたこの本は非常に勉強になりました。実無限と可能無限についての議論について、数学とは別の部分で気になったところがありました。無限という数が実際に存在していて、無限についての理解が不十分であったりするのは人間の認識の限界の問題なのだという考え方は、認識論のたとえばカントの物自体の世界についての考え方にも似ているなと感じました。それにたいして可能無限の考え方は、存在について議論する価値があるのは有用な対象のみであり、実在について議論することは無意味だとするプラグマティズムの考え方にかなり近いなとも思いました。数学の論争と認識論の論争の間に、このようなシンクロニシティがあることに私は面白さを感じました。
  • 遠藤周作 / 沈黙
     圧倒的名作。もはや私が何も言うことはありません。神は沈黙していたのではなく、ただひたすら足の下で……(ネタバレのため伏字)。という展開も鳥肌ものですし、そこで扱われている弱い者の神というテーマも重みを感じます。この弱い者の神というテーマはたしかに宗教的な意味合いもあるわけですが、たとえば民主主義においても重要なテーマであると感じました。
  • 江戸川乱歩 / パノラマ島奇談
     アイデアは面白いけど、もひとつ楽しくなかったなぁ。
  • フィリッパ・グレゴリー著 加藤洋子訳 / ブーリン家の姉妹 上・下
     史実をベースにしつつ、物語としての面白さを優先する形でかなり大胆な改変もされています。それは大成功で、超面白い物語になっています。なにより個々の登場人物のキャラがたっていて魅力的です。下巻でメアリーが夜をひとり馬を飛ばし、愛する人のもとへ走る場面ではテンションが上がります。この場面が物語のクライマックスだと思います。このような家族や集団のしがらみによって、自分らしい人生を生きることをあきらめていた人が自分自身の人生を獲得する場面って私は大好きなんですよね。あとはアンの最後の出産シーンがダーク、そして魔女狩りをする女性が現れる場面の絶望感。実にドラマチックな物語でした。