最近聴いた音楽

  • Epica / Quantum Eniguma
     シンフォニックメタルというジャンルがメタルの一つのサブジャンルとして認識される以前の段階でも、メタルのアルバムにはストリングスによる荘厳なイントロがついていたり、プログレッシブな曲展開があったりと、シンフォニックメタル的な要素がありました。シンフォニックメタルはその要素をプログレ的な方向ではなく、曲のスケール感を重視するような方向で拡大解釈することにより誕生したというのが私の認識です。そして曲の構築美はまさにメタルの魅力の一部であり、そう考えるとシンフォニックメタルは間違いなくメタルファンにとって魅力的なサブジャンルであるはずです。しかし、実際にシンフォニックメタルとして世に出た音楽からは、微妙なズレを私は感じることが多いです。その理由はメタルという音楽があくまでもギターリフを中心に構成される音楽であるのに対して、シンフォニックメタルで必要となるオーケストラやクワイヤのアレンジはキーボーディスト的な知識が求められるわけで、曲の端々でキーボード的なアレンジ、ギターリストなら使わないようなコード展開が顔を出すことが多いように感じるからです。逆に言えば、アレンジに由来するこのズレを解消することによって、シンフォニックメタルはメタルファンのストライクゾーンのど真ん中にズバーンっと決まる音楽になるはずなのです。しかし、なかなかそういうバンドは現れなかった(キーボーディストの自己満足でビッグバンド風のアレンジを取り入れてみたりするのはやめてください)・・・のですが、このEpicaの新作こそはまさにそういう、メタルファンのためのシンフォニックメタルといっていいのではないでしょうか。重厚で破壊的なアレンジ、地の底から湧き上がるようなストリングスとクワイヤは、まさに王国の興隆と滅亡、銀河の誕生を思わせるスケール感で、聴き手をカタルシスの渦に巻き込みます。オーケストラやクワイヤはもちろん、ギターやヴォーカルなど、すべてのパートがアルバムを通じて緊張感に満ちたメロディを奏でているからこそ、この圧倒的なヴォルテージがキープできるのだと思います。美しく荘厳で緊張感に満ちたスキのない一枚といえるでしょう。

  • Allegaon / Elements of the Infiinite
     これはいい!時にカオティック、時に勇壮に奏でられるシュレッド交じりのギターのメロディと、ブルータルなギターリフ、重厚なバスドラの音の壁、まさにこれぞメロデスと呼ぶにふさわしい音楽です。下水系のグロウルも密度の超濃いバックに負けておらず、緻密さと圧倒的なパワー感が両立しています。しかもアルバムの構成が実にうまい。所々で恐怖系の荘厳なイントロやアウトロ、あるいは不穏な響きのアコギのアルペジオをはさみつつ、アルバムの中だるみしがちな中盤で“1.618”“Gravimetric Time Dilation”というアルバム中もっともキャッチーな2曲を立て続けに収録することでアルバム後半への期待感を一気に高めます。高品質であるにもかかわらず、アメリカ発のメタルコア勢に量の面でおされがちだった正統派メロデスですが、まだまだヨーロッパ的なフレイバーメロデスに未来があることを感じさせてくれるアルバムでした。


  • Hellyeah / Blood For Blood
     Damage Planが個人的にあまり好みではなかったので、それ以降あまりパンテラから派生したバンドは聴かなかったのですが、今あらためてHellYeahの新作を聴いてみると、良くも悪くもスタンダードなヘヴィロックなんだなと感じました。むしろオーソドックスであるからこそ、突出したこのバンドの魅力が見えてくるように感じます。ヴィニーのドラムがもつ爆発的なヘヴィネス、アンサンブルが奏でる野太いグルーブ、ワーミーやトレモロを駆使してギューーンと曲のヴォルテージをあげてくるギターなど、気取らないアメリカ人のロックを聴くことができます。同時にスローな曲ではメロディが際立つ曲が多く、ヘヴィでタフ、ワイルドでありつつ、キャッチーな魅力を感じることができました。


  • Death Angel / Dream Calls for Blood
     彼らのポジショニングって微妙ですよね。デビューしたのはスラッシュメタル全盛期で、しかもベイエリアという多くのスラッシュメタルバンドがデビューしたエリアから登場しました。こういう典型的なスラッシュメタルバンドとしての側面をもっている一方で、全員がフィリピン系だったりアルバムにファンクの要素を取り入れたりという、より幅広い音楽へアプローチしていく要素も持っていました。音楽性についても紆余曲折あったわけですが、新作はスラッシュへの回帰といわれています。たしかに新作には意図的にメタルに徹しようとする意図を感じます。しかし、彼らの血の中には確実にイカしたグルーブが入っていて、スピード感を重視した畳みかけるリフと、吐き捨て方のヴォーカルという典型的スラッシュメタルエッセンスで構成されているアルバムであるにも関わらず、気持ちのいいしなやかなグルーブのフレイバーを感じることができます。2曲目の“Son Of Morning”なんか聴きようによっては、スラッシュメタル meets キザイヤ・ジョーンズに聴こえなくもありません(あくまでも聴きようによってはです)。それに彼らの楽曲はどんなにリズムが速くなってもスラッシュにありがちなツービートになるのではなく、あくまでもエイトビートのグルーブ感なのです。私が魅力を感じたのは、彼らが典型的なスラッシュだけではなく、幅広い音楽のバックグラウンドをその音楽から感じることができるところでした。もちろん彼らがもっとも訴求していくべきファンはメタルファンであるわけですし、メタルファンは純度の高い音楽を求めることを考えると、今後彼らがファンク要素をダイレクトにアルバムに持ち込むことはあまり考えられませんが、彼らには変に意図的に音楽の方向性を調整するのではなく、ストレートに彼らの中から出てくる音楽をやってほしいなと私は感じました。