最近読んだ本

  • 三上 延/ビブリア古書堂の事件手帖6~栞子さんと巡るさだめ~
    太宰治のお話。ミステリーとして手堅い面白さをもちつつ、ラノベ特有のやたらするする入ってくる文章です。探求する謎自体も魅力的でした。読みやすいといえば読みやすいんですが、ちょっとコスパ悪いかね。
  • 森 博嗣/すべてがFになる
     複雑で抜け道のないように感じられるトリックを矛盾なく解決しているという点でみごとなミステリーといえるわけですが、この作品には魅力的だと感じられることは多くあります。まずあれこれとテクノロジーが進歩した現在において密室トリックとか、外部との連絡が完全に断たれた状態というのは、なかなかありえないわけです。しかし、この作品では力技ではあるものの、一定の説得力のある形でそのような状況が設定されています。キャラクターも魅力的で小説としてはエンターテイメントの要素がこれでもかと詰め込まれていました。
  • 平田 オリザ / わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か
     コミュニケーション能力というのが、どのような能力を指すのかは非常にあやふやで都合のいいように解釈されている言葉なわけですが、この本ではそれを「異文化理解能力」という形で明確に定義し、その必要性を説いています。そして空気を読まなければだめな社会から、多様な価値観を受け入れる社会への変革を訴えるという内容にはたいへん共感できるものでした。
  • アンドリュー・パーカー目の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く
     カンブリア爆発というと種の多様性が一気に進んだ時期と理解されているわけですが、著者はカンブリア爆発を外部構造の多様性が進んだ時期であり、内部構造はすでに準備されていたと指摘します。その上で、外骨格の多様性が進んだのは、ある三葉虫において目が進化したことにより一気に外部構造の獲得が進んだと主張しています。なぜ目が登場することで外部構造が一気に獲得されるのかは、実際に本を読んでもらうとして、この本は目と生物の色彩に関する周辺的な情報もかなり詳細に述べています。ただ、正直言って私はこの著者の主張にまだ十分に納得したわけではありません。というのもやはり目が登場する部分と、外部構造が充実する因果関係が十分に説明されていないと感じるからです。
  • 藤田孝典 / 下流老人
     高齢者の貧困問題について非常に有益な内容でした。この手の本はどうしてもあれもこれも公的な支援でという内容になりがちですが、この本はそこらへんが、比較的しっかり説明されています。ある支援がなぜ必要なのか、これがどう社会の利益になるのかというあたりの説得力はかなりあります。とはいえやはり公の負担は大きくなりがちで、健全な財政支出という観点からは難しい部分もありそうに感じます。ただおおすじの主張は、かなり賛成できる内容でした。国保生活保護の統合や生活保護費を一定額を支払う形にすることで受けやすくなるといった提案もたしかにと思わせる部分がありました。あと自分自身が下流老人にならないためというレクチャーは有益です。ただ根本的な価値観の部分で「長生きは素晴らしい」と筆者は考えているんですよね。ここはあまり納得できませんでした。そんなに長生きっていいもんですかね?もちろん早死にはしたくないですが、適当なところで死ぬっていうのは幸せな人生の重要な要素だと私は思います。ドライブに行けない、ロックのライブにもいけない、酒も医者に止められてる、セックスもできない。この状態で何十年も生きていて何なんだろうと思います。ましてや自分の力で立って歩けない状態とかになったら、とっとと死にたいなぁと思いますけど、私がまだ若いんですかね。たぶん70過ぎあたりで死ぬのが一番、幸せで満足感も高そうな気が私はしています。年寄りになったら年寄りになったなりの人生の楽しさがあるんですかね?祖母は経済的にはまったく困っていませんでしたが、病院で意識があやふやな状態で寝ているのを見た時、私はこうなる前に殺してくれない今の医療は残酷だなと感じましたけどね。
  • 志賀 櫻 / タックスヘイブン
     イギリスの印象が最悪。あやしげな金融スキームの舞台になっているタックスヘイブン、オフショアセンターなどの実情をあれこれと説明しているわけです。そういえばグーグルやアップルといった企業が税金をほとんど収めていないということが、問題になったことがありました。そういうのも、こういう仕組みを利用して税金が課されないようにしているわけですね。ただ国際会議などでの駆け引きの話を聞くと、結局国家が擁護してしまうので、タックスヘイブンを撲滅することは現実的には無理ですよね、これ。富裕層に課税すべきだ、レバレッジをかけまくった投機を規制すべきだ、そして筆者が主張するように「タックスヘイブンを撲滅すべき」というのはべき論としては正しいのかもしれませんが、現実的にはほぼ無理だと思います。一部の穴をふさぐことは可能ですが、あちこちから水漏れしているバケツの穴の一つをふさぐようなことをしても大勢に影響はないということになりそうです。