最近読んだ本

  • 遠藤周作 / 深い河
     登場人物各々が物語を背負ってガンジス川にいくわけですが、登場人物それぞれの物語に重みがあり、小説に多層的な深みを加えています。この作品で遠藤が意図したこととは全く違うと思うのですが、この作品の中で自分自身の信じるものを見つけた人物は幸せになっているなぁと感じました。もちろん自分にとってのキリスト教を見つけた大津(世間的な基準からしたら、あまり幸せじゃないでしょうが)、車とゴルフばっかの美津子の夫とそのとりまき(小説の中では完全にかませ犬ですが)、あたりは自分の幸せを疑っていないように思います。あと、できれば後日談を読みたいなぁと思いました。磯辺や美津子のその後は特に気になります。ある種の結論は出るわけですが、それで行動はどう変化するのか。著者の深い考察の過程と、その考察を表象するためにねりあげられた構成と描写は圧巻で、傑作であることは間違いありません。この小説に本当の意味で共感するためには、ある種の経験(物語の主要な登場人物が経験したような心の傷、重荷を背負う経験)が必要でしょうが、それこそ美津子の夫のように自分の欲求があり、それが満たされれば幸せであるという単純な構造の繰り返しだけで人生を構成することはできないだろうなという漠然とした予感がこの作品の感動を普遍的なものにしていると思います。
  • 遠藤周作 / 海と毒薬
     めっちゃ薄い本なんですが、重厚な読後感があります。ひとりひとりが背負っている罪の意識、くねくねと曲がる道を歩いて行った先にあった大きな落とし穴。そういえば映画エクソシストでも悪魔は私たちがもっている罪の意識に付け込んで近寄ってきます。ただ、その罪の意識っていうのは、人間だれしもが抱えている弱さでもあるわけです。その意味では、私たちの平凡な日常の中にも暗い大きな落とし穴が口を開けていることも、この物語は暗示しているのかもしれないと思うと、ますます暗い気持ちになります。まごうことなき名作といっていいでしょう。
  • 江戸川乱歩 / D坂の殺人事件
     う~ん、そんなオチ?って思ってしまうような作品がほとんどなんですよね。なんというか思いつき自体は悪くないんでしょうが、それに肉付けされいない感じなんですよね。
  • ウィリアム・ゴールディング / 蠅の王
     まぁ暗い物語といえば暗い残酷な物語なんですが、北斗の拳の雑魚の「ヒャッハー汚物は消毒だーー!!」的な楽しげな雰囲気を感じなくもありません。背景にある暴力性っていうのもわかりますし、登場人物たちはまぁ必死なんでしょうが、イカしたファッションセンスをもつジャックの八面六臂の活躍のおかげで、あんまし重苦しい感じになりません。マメで潔癖できちんとしたいラーフ、オタク系ピギー、マッチョでバカっぽいジャックあたりのキャラの立ち具合がテーマ以上に面白く、あぁ大学のサークルとかでもここらへんの性格の違いによるもめごとってあるよな~とか、そういう思いの方が先行してしまいます。まぁ殺し合いはしませんし、イマドキだと、こんな風にマッチョタイプがリーダー化しちゃう状況は、レアな気もします。団塊の世代とかだと武闘派がリーダーシップを発揮するとかありそうですけどね。