最近読んだ本

  • 松本和紀 / メディア・バイアス
     メディアで最近話題になった疑似科学もの(マイナスイオンとか、環境ホルモンとか)について、一定の科学的な見地からの冷静な分析を読むことができるほか、保存料は少ない方がいいとか、食品添加物は危険だとかいった私たちがなんとなく持っている先入観を相対化できる良書。またなんで報道は偏ってしまうのかという中の人の事情まで知ることができる。ちなみにこの本の内容も絶対ではないので気を付けるようにと著者は前書きに書いているが、読み手にそういう冷静な立ち位置をとるように忠告することは、危機感を煽ったり、有機野菜を持ち上げたりするだけのマスコミには間違ってもできないでしょう。この本の中で気に入った箇所はいくつもあるのですが、特に気に入ったのは次のふたつの話です。三菱の自動車の事故が起きた時、三菱自動車の車両火災のニュースが頻繁に流れたが、報道されたなかで実際に三菱自動車の側の不手際による車両火災はほとんどなく、車両火災の原因は車両を所有している側の整備不良や改造によるものがほとんどで、車両火災の発生頻度もほかのメーカーと変わらなかったらしいです。たしかに報道は三菱の自動車が実際以上に危険であるかのような印象を視聴者に与えるものでした。また昔の日本の食生活はよかったと懐古趣味的報道がなされることがあるけれど、昔の日本の食生活はたいへん貧相だったという指摘も気に入りました。これと同じようなノリで最近私が気になっているのはコラーゲンまわりの話題で、グルメ番組などでよく女性タレントなどがコラーゲンたっぷりでお肌プルプルとか言っているのですが、コラーゲンの経口摂取は意味がないっていう結論になったはずなのですが(たとえばWikipediaとかにも普通に載ってる)。非常におもしろかったです。ちなみに著者のブログがこちら。コラムがこちら。著者が紹介していたブログがこちら
  • 青木保 / 多文化世界
     素晴らしいのは前半で後半でソフトパワーが出てきたあたりから雲行きが怪しくなります。とにかく主張の根拠が主観的なんですよね。前半の第一章の「理想の追求」の話はたいへんおもしろかったです。よりよい世界を追求しようと思ったとき、私たちのイメージする「よい世界」はひとつのパターンでしか描き出されなない場合がおおく、そうすると結果的にほかの人がイメージした別の「よい世界」との対立が起きる。重要なのは「よい世界」は複数存在し、自分がイメージする「よい世界」がたった一つの「よい世界」ではないということを受け入れることである。そして、これは単なる相対主義ではなく、私たちは自分が考える「よい」だけでなく他者が考える「よい」を理解する能力があるのだという筆者の主張は非常に説得力があると思いました。