最近読んだ本

  • 綾辻 行人/人形館の殺人
     Amazonでは絶賛なんですが、正直微妙な気が…。基本的には叙述トリックなんですが、なんか私は途中で犯人が分かっちゃったんですよね。あと館シリーズで私は他に暗黒館しか読んでないのも微妙に感じた理由の一つだと思います。
  • 松本仁一/カラシニコフI・カラシニコフII
     以前読んだ『アフリカ・レポート』の著者による、失敗国家を中心とした国のルポ。絶望的かつ暗澹たる気持ちにさせてくれることこの上なしな内容です。アフリカの政治状況は『アフリカ・レポート』で読んでいたので、まぁ基本的に驚きはなかったのですが、興味深かったのは銃の出どころで、国としてユーゴ・北朝鮮・中国・パキスタンあたりはまぁそうだろうなという感じなわけですが、銃の刻印がまったく信用できない話とか、その刻印をつけていく場面、中国の銃の密輸事情などを知ると、ほんと中国あたりは信用できないなぁと感じざるを得ません。また銃と麻薬のあいだの深い関係についても述べられていて、ラテンアメリカの一部国家を統治していくことの難しさの一端が分かりました。治安を守ることが国家にとって極めて大切であり、その前提の下でのみ武力の独占が許されるのだという一節が印象的でした。
  • 江戸川乱歩/孤島の鬼
     美しいホモカップルにフリークショー、密室殺人、孤島の地下迷宮と、とにかく江戸川乱歩のエンターテイナーっぷりが炸裂する一冊。超おもしろい。あっという間に読み終わります。
  • ポール・オースター著 柴田元幸訳/ガラスの街
     オースターのデビュー作。この作品自体は読んだことがあったのですが、別の人の手による翻訳のものでした。もともとちょっとした勘違いがあり、オースターはミステリー作家として理解されていた部分があり、元の翻訳もミステリーとして表面的な筋の明確さを重視していたわけですが、新訳はオースターらしいマジックリアリズム的で内省的な描写に重点が置かれているはずです。「はずです」としたのは、実は旧訳と新訳でそれほど作品の印象が変わらなかったからで、もっと違う作品として感じられるとこの本を読む前、私は考えていました。まぁ同じ文章を訳している訳で、翻訳が違うからといってそれほど変化するはずもないか。というわけで旧訳で読んだことのある人がわざわざ読み直すほどでもないと思います。作品自体は第一作とはいえ、オースターらしい人探しからしだいに自己の内面に探求対象が変化してきて、世界にはさまざまな象徴がちりばめられているという内容です。後の作品ほど要領よく話が展開していかないため、ちょっとダレてくるような印象を受ける部分もありますがコンセプトの秀逸さがそれをすべてカバーしてくれます。
  • 村上春樹/1Q84
     彼の作品を読むと彼が一作ごとに読者に歩み寄ってくる感触があります。具体的には明快なストーリーとクリアな映像美によって、より気持ちよく作品を読み進められるように配慮されています。彼の作品の中には全体に霞がかかったようなビジョンのなかでストーリーを追っていく感覚になるものもありますが、この作品の映像はとにかくクリアで鮮明、読みやすく6冊がすんなり終わってしまいます。喪失感というテーマはもちろんあるのですが、この作品での登場人物はかなり積極的に自分自身の喪失と向き合っていきます。この作品はある種の並行世界ものであるのですが、その世界観も美しくスリリングです。ストーリーやテーマはもちろんですが、私が特に感動したのは主人公が父の寝ていたベットの上で「空気さなぎ」(これが何かは作品を読んでください)を目にする場面で、夜の青い光の中で白く輝くまゆは言葉を失う美しさです。また神様がメルセデスのシルバーのクーペに乗って現れる場面もニヤリとさせられました。