最近聴いた音楽

  • Behemoth / The Stanist
    ヘヴィメタルの中でもブラックメタルというジャンルは、メンバーがみんな白塗りのメイクだったり、そのわりに演奏がショボかったりと、本人はまじめに悪魔崇拝っぽい雰囲気でオーディエンスをビビらそうとしているのかもしれませんが、どうもコントっぽいというか、低予算ホラー映画っぽいというか、変な感じになりがちなジャンルです。しかし、このBehemothの新作はブラックメタルも洗練されるとここまですごいのかと思わせる凄みに満ちています。ヘヴィメタルにおいてはバロック~古典派あたりまでのクラシックからの引用や、それっぽいアレンジによるドラマチックな演出はけっこうあるのですが、Behemothはそのようなありがちな方法に頼るのではなく、独特なエスニックな雰囲気が異教の神を思わせるドラマ性を生み出しています。そして、単に悪魔的でまがまがしいだけでなく、オリジナルな美意識で統一された音楽は美しく耽美的でさえあります。ポーランドでは初登場一位らしいですが、ポーランドのラジオではブラックメタルサザンオールスターズのようにオンエアされているのかと思うと胸が熱くなります。

  • Primal Fear / Delivering The Black
    んんん~、予想はしていたけど、やっぱりな~。基本、このバンドの場合音楽のクオリティに不満はないのですが、結局そのクオリティが非常に予定調和な仕方で作り出されていることが透けて見えてくるところが一番の弱点のような気がします。結局、メンバーはメタルっていうのはこういうものだとという固定観念があり、確信犯的にその固定観念を踏襲するように曲を作り、その曲を受容するリスナーがいるというシステムの中で成立している音楽なんですよね。音楽の質が高いという意味ではいいアルバムでしたが、私はまったく楽しくありませんでした。

  • Iced Earth / Plagues Of Babylon
    こちらも変わり映えのしないアルバムをリリースし続けるIced Earthの新作。彼らは前作あたりから積極的にキャッチーなメロディーを導入することで、とっつきやすさの向上とB級臭の払拭を試みているように感じます。しかし、それでもなぜかなくならないB級臭。なんでなんでしょうかね~。基本的にはかれらのアレンジや曲展開の部分部分であらわれる、過去のフレーズの使い回し、リズムや調性面でのひねりのなさあたりが、気になります。これも個人的にはあまりぐっとこないアルバムでした。

  • Andy James / Psychic Transfusion
    これは素晴らしい!インストアルバムを制作するとなると、どうしてもギタリストは音楽的な挑戦をしたくなります。ヘヴィメタル版Return To Forever、あるいはELPのようなサウンドのメタルを、とか構想は膨らむばかりです。もちろん、そういうことも意味はあります。というか、かくいう私もReturn To ForeverもELPも大好きです。眩暈がするような変拍子や超絶技巧、複雑なコードとスケールの組み合わせ、人の声が歌えるメロディという前提で曲を作っていては、絶対にできない音楽的冒険です。しかし、それを追及していくと徐々に音楽から親しみやすさは薄れ、いつかそれはもはや音楽ではなく、音楽理論に沿って展開される壮大なパズルの様相を呈し始めます。実際、プログレッシブロックフュージョンという音楽は、常にその危険と隣り合わせの音楽だと思います。しかしAndy Jamesの音楽は常に音楽的で、心を打つメロディにあふれています。曲構成も不必要に複雑ではありません。おそらくギターの奏法についてまったく知らない人や、変拍子をカウントできない人が聴いても、この音楽のすばらしさを理解できるはずです。テクニカルでありながら、音楽の本質に立ち返り、その魅力に気づかせてくれるのが彼の音楽のよさだと思います。彼はトニー・マカルパインと少し似ていると感じました。彼は一時のトニーほどネオクラシカルではありませんが、メロディーのセンスなどに通じるものを感じます。ギターインストメンタルは決して大きなマーケットではありませんが、今後も素晴らしいアルバムをリリース続けてほしいと感じました。下に貼った動画はEMG TVのもの。このEMG TVでは素晴らしい演奏を多く見ることができます。個人的におすすめはToshin AbasiとVictor Wootenですね。このふたりの演奏には本当に魅了されました。しかしAndyの演奏は彼らの演奏に負けずとも劣らない素晴らしいものだと思います。