最近聴いた音楽

  • John Mayer / Where the Light is
    若手ギタリストの中ではたぶん一番ビッグネームであるジョン・メイヤーのライブDVD。全体が三つのパートに分かれています。最初がアコースティックギターのセット。二つ目がトリオ編成のバンドによるセット。そして最後がホーンなども含む編成の大きなバンドによるセットです。非常によく考えられた構成で、アコースティックだけで長時間ライブをすると、後半は退屈します。しかし、シンプルにギターと曲の魅力を感じてもらうにはアコースティックのシンプルなセットがベストです。一方で大編成のバンドはアレンジの幅が広がりますし、アルバムに近い音を再現することができます。そしてトリオ編成はギターを弾きまくり、ほかのパートとのインタープレイを楽しむには一番最適な編成です。一回のライブでそのすべてを見ることができるのは、お得ですし、中だるみも防ぐことができます。個人的にはトリオ編成によるライブが一番彼のギタリストとしての魅力を感じることができました。とくにジミヘンのカバーは彼のセンスの良さと完成度の高さを感じることができます。またギタリストはマニアックになりがちですが、選曲やアレンジなどを含め、彼がただ巧いだけでなくポピュラリティーのある音楽ができるギタリストであり、だからこそ高い評価を得ているのだということが分かりました。あとなんで日本版のDVDはこんなに高いの?

  • Carcass / Surgical Steel
     いつのまにかデスメタルという言葉はメロデス周辺の音楽を指すようになってしまいましたが、かつてMorbid AngelやObituaryがその中心的存在だった頃のデスメタルはもっとリフオリエンテッドな音楽でした。それがいつのまにか正統派ヘヴィメタルの手法を音楽に導入するバンドが多く成功し、デスメタルシーンの中心はメロディックデスメタルへと移っていったように感じます。その流れを作り出す上で重要なアルバムであり、ヘヴィメタル史に残る名盤が、このカーカスの“Heartwork"であることは間違いないでしょう。しかし“Heartwork"という作品を残した事がCarcassというバンドにとって幸福な事であったのかは微妙なことで“Heartwork"における印象的なギターワークがCarcassというバンドにメロディックで叙情的なギターへの期待を作り出してしまった事はまぎれもない事実です。しかし、Carcassというバンドは本来ストレートなデスメタルバンドとしての要素を強く持っているバンドであり、“Heartwork"のメロディックなギターはマイケル・アモットの個人技的な側面も多分に含まれていたわけです。事実、Carcassを抜けたあとマイケルが結成したArch Enemyはまさにメロディック・デスメタルを代表するバンドとなりました。いわばCarcassは本来のバンドのあり方とはズレた期待にさらされることになってしまったわけです。この難題に対する一つの回答がこのアルバムで示されています。いまやデスメタルは曲の構成からリフ、サビのコード展開、そしてギターソロにいたるまで、はっきり言ってしまえば正統派ヘヴィメタルのVoをグロウルにしただけのような音楽になっています。しかしCarcassの“Surgical Steel”はおけるモノトーンでダークなリフはまさに古典的デスメタルボキャブラリーに属するものです。特にドラムとリフが交錯することによって生まれる独特のグルーブは最近の妙にきらびやかなデスメタルには期待できないでしょう。しかし、古典的デスメタルがアルバムの隅から隅までをリフで埋め尽くしたのに対して、この“Surgical Steel”には緩急のある曲展開があります。アルバム全体にも流れがあり、リフ自体はデスメタル的でありながら、アルバムトータルで聞くと非常に音楽的な流れを感じます。そして、いま単純に音楽だけをとりだしてCarcassというバンドの音を聞いたとき、そのサウンドが非常に質の高いものであることを改めて感じました。たしかに“Heartwork"という作品によって彼らの魅力が過剰に増幅され、マーケットを拡げたことは事実ですが、彼らには彼らのマーケットがそもそもあり、その中で彼らは十分にトップバンドなのだと思います。私がなにより魅了されたのが、アグレッシブでありながら血の通ったサウンドです。残虐でアグレッシブなサウンドを出そうとした時、ひとつの方法は人間性を極限まで排除することです。たとえばギターアンプはソリッドステートを使い、曲は新時代の殺戮マシーンのようなイメージをまとうことになります。しかしCarcassはそちらの道を選択しません。彼らは負なる感情を寄せ集め、その集積として音楽を作り出します。彼らの曲は古代魔術によって作り出されたゴーレムのようなイメージがあります。ギターはソリッドステートではなくチューブによって歪んでいます。そこからは禍々しい人々の呪いが強大なパワーとなって流れ出します。素のデスメタルの魅力を再確認させられた作品でした。


  • Chimp Spanner / At the Dream's Edge
    ジャンル分けするなら、インストプログレメタル?複雑なコード進行、難解なリズム、超絶なテクニック、深い音楽的素養と映像的なセンス、徹底的に質にこだわった音楽を聴くことができます。こういうタイプのミュージシャンが音楽を作ると以外と印象に残らない普通のフュージョンになってしまったりする傾向があるのですが、彼の場合はモダンでヘヴィなリフと確固としたイメージに基づいた曲作りによって、曲ごとのイメージが鮮明です。アルバムを聴き終えたあとには、まるでスタンリー・キューブリックの映画を鑑賞したあとのような充実感を味わうことができます。しかもその世界観は壮大で、宇宙のような未知で途方もない広がりを感じさせます。あまり有名ではないというか、まったく知られていないミュージシャンですが、途方もない才能と音楽的素養を感じさせます。というかスゴすぎて逆にポピュラリティーがないパターンですね、これは。