最近聴いた音楽

  • Mors Principium Est / Dawn of the 5th Era
     荘厳なスケール感、抒情的なドラマが圧倒的なクオリティでバランスした孤高のメロデスを鳴らすMors Principium Estですが、新作は、彼らの個性である虚空に響くアンビエントな響きと透明感にさらに磨きをかけた、期待を裏切らない悶絶必至の作品となっています。サビが口ずさめるような親しめるメロデスが一般化する中で、曲の構築美で聴き手を魅了する彼らの作品は、孤高の存在であると同時に、メタルの伝統にのっとった正統派の作品といえるでしょう。しかも作品を重ねても、演奏の緊張感はまったく衰えることなく、新作でも全編にわたってリフ、メロディ、ハーモニーが息をつく間もなくたたみかけてきます。しかも新作では彼らの緻密なメタルサウンドを、より気持ちよく味わえるような方向でサウンドプロダクションがクリアになっているほか、曲の構成も整理され、ひとつひとつのフレーズやメロディが曲の中でどのような効果を持つのかなども、今まで以上にしっかり計算された作りになっています。これまでの作品はアルバムの冒頭から疾走感のあるリフでつっぱしる作品が多かったように思いますが、新作は後半からむしろスピード感がアップし、はかなげなアルバムのエンディングに向けて大きな盛り上がりを迎えます。まさに圧巻の新作といっていいでしょう。

  • Gus G/I'm The Fire
     Firewindとの違いは誤差の範囲です。サウンドは実にオーソドックスなメタルではありますが、Firewindよりはちょっとラフなイメージなのと、ゲストヴォーカルを迎えた作品ではゲストに合わせた曲調になっているとか、インスト曲が多めなどといった違いがあります。とはいえ全編、Gus Gのテクニカルなギターと、優れたメロディーメイカーとしての才能が味わえるという点で、満足感の高いアルバムになっています。特に彼のギタープレイは、最近ありがちなレガートプレイを主体にした音符を小奇麗に並べるタイプではなく、オルタネイトピッキング主体のゴリゴリガツガツしたロックフィーリングあふれるスタイルで、非常に聴きごたえがあります。ロックのもつ荒々しさと、メタルの持つ構築美が両立した、正統派メタルの佳作でした。


  • Machine Head / Bloodstone & Diamonds
     アメリカのサザンロックなどに通じる野太い感覚と、ヨーロッパのメタルが持つドラマ性は、時には水と油なわけですが、Machine Headのサウンドにはその両者がケンカすることなく共存しています。一時期、方向性に迷いがあったわけですが、ここ数作はメタルとしての完成度を高めるという一貫した方向性が示されています。メタル的な高揚感と同時に、メロディーからはじわりとにじみ出てくるような感動があり、独自の重厚な構築美を持つメタルサウンドへの自信が伝わってくる作品でした。


  • In This Moment / Black Widow
     実にアメリカらしいマーケットありきの作品で、ニューメタル以降のモダンなリフや、インダストリアルっぽいアレンジ、レディガガみたいなポップセンスなどが組み合わされた作品になっています。単に刺激的なサウンドというだけでなく、実に演劇的でインモラルで怪しげな世界観が展開されており、ビジュアル面もトータルでコーディネイトされています。ビデオのア―ティスティックでミステリアスな仕上がりは素晴らしいです。圧倒的なメジャー感、プロデュースされつくした完成度を感じることができます。ただ、いくら歪んだギターがなっていようが、アルバムからメタル的なカタルシスはまったく感じませんでした。メタルはいくらハードになっても、それは熱い(時には暑苦しい)魂からでるものでなければダメだと思うんですよね。その点、このアルバムからは人間のもつ熱さが感じられません。