最近読んだ本

  • リチャード・ドーキンス / 進化の存在証明
     もともとの英語のタイトルは“The Greatest Show on Earth”で『進化の存在証明』は副題なのですが、メインタイトルを副題の方の『進化の存在証明』にしたくなる気持ちがよく理解できる内容でした。生物学上の様々な発見などをあげ、それが進化という現象が実際に存在していることの証明になっていることをこれでもかと述べていくという構成がとられています。このような構成がとられているのには訳があって、アメリカを中心に進化論に否定的な創造論の立場を取る人が多く、それらの人々は生物学上の様々な発見を進化論とは全く異なる創造論の文脈に位置づけようとします。創造論については、いまさら説明する必要がないかもしれませんが、創造主的なすごい存在が私たちの世界を作り出したとする考え方で、ようするに今の世界の生物は進化の結果生み出されたとは考えない訳です。ドーキンスはこのような立場にまったく合理性がなく、進化論こそが真理であることをこの本で証明しようとしています。とはいえ日本では創造論はあまりリアリティがなく、その反論という文脈において語られるこの本の内容は、私たちにはちょっとピンとこないものかもしれません。むしろ、私たちの印象に残るのは知的好奇心を刺激する生物学上の多様な発見の素晴らしさ、意外性であり、それを論理的に整合的に説明する進化論の可能性でしょう。生物の世界が感動的でありながら、時に残酷でもあり、数学的厳密さを見せる法則によって一貫性ある形で理解できる可能性をこの本は教えてくれます。そのひとつひとつの証明が、心を躍らしてくれるわくわく感に満ちていることが私にとっては重要でした。
  • 伊坂幸太郎 / アヒルと鴨のコインロッカー
    ミステリーにめずらしく、どこか人を食ったような雰囲気が印象的な作品でした。大量に伏線を張りつつ、それらがしっかりと回収されるストーリーはみごとです。
  • ヴィクトール・E・フランクル / 夜と霧
     旧訳も読みました。訳の仕上がり自体は新訳と遜色はありません。新訳が親しみやすさを感じる訳であるのにたいして、旧訳は学術的な誠実さを感じます。できる限り正確に筆者の意図を表現しよう、構文を正確にとろうという訳者の努力を感じることができます。新訳が出ても、この旧訳を絶版にしなかったみすず書房の判断は素晴らしいと思います。で、この『夜と霧』を読むとしたら新訳と旧訳のどっちがおすすめかという天についてですが、私は圧倒的に旧訳をおすすめします。旧訳には訳者による詳細な強制収容所の解説と図版資料がついています。特に図版資料は必見の内容となっています。