最近聴いた音楽

  • Primal Fear / Rulebreaker
     直球勝負の正統派メタルをひたすら極めているバンド、Primal Fearの新作です。彼らは安定感がある一方で、なんというか惰性でやっている感じというか、手もちのパターンを順繰りにちょっとだけ変えながらやっているような感覚があります。このマンネリ感というやつは、すでに成熟しきって、ひととおりやりつくされた感のある正統派メタルの持病といってもいいですね。Primal Fearもこの問題と無縁ではありません。しかし、新作ではマンネリ感はかなり払拭されています。そうなってくると正統派メタルのいい面、すなわち、安定感、かなり高いレベルで一定の質が常に保障されているという面を強く感じることができます。したがってトータルで新作はなかなか素晴らしい出来だといえるでしょう。手もちのパターンで曲を作るにしても、そのハマりかたというか、整合感が非常にしっくりきていて、ただのネタの使い回しがかもしだす雑さを感じさせません。ワンパターンでも丁寧に、そして細かなことでも新鮮味を見出そうという良心を感じさせます。また演奏も、テクニック面はもうちょい刺激的でもいいかなとも思いますが、ヴォルテージは高く飽きさせない内容になっています。




  • Hiromi Uehara / Spark
     ピアノという楽器はなかなかすごくて、左手でリフやコードをキープしつつ、右手でメロディーを弾くことができますし、コードの転回もかなり自由自在、多彩なコードヴォイシングを再現できます。ギターでもコードをキープしつつメロディーを弾くことはある程度できますが、かなりの制約があります。コードでならせる音も同時に6音までですし、コードのどの音を弾くかについてはフィンガーボード上の音の並びに制約されます。ピアノの演奏、とくに彼女のように自由自在にピアノを操っている演奏を聞くと、うらやましいような、妬ましいような、なんとも言えない気持ちになります。しかし、実際は彼女のピアノの響きというのは、彼女の演奏技術あってのものであり、ハイレベルなギターの演奏を聞いたピアニストも同じような気持ちになるはず・・・だよね?それはともかく、彼女の素晴らしいところは、ジャズの複雑な部分と、シンプルで分かりやすい部分を自由自在にいったり来たりすることができるところだと思います。ある程度、音楽の知識や演奏技術がそなわってくると、欲張りになってしまって、ありとあらゆるところで難解なコードを使ったり、変拍子で埋め尽くしたりくなりがちです。しかし、彼女の音楽はポイントポイントで驚くほどシンプルで、そしてそれが音楽に強烈な個性と力強さを与えています。彼女の音楽はジャズでありながら、スイング感やグルーブ感はそれほど強くなく、メロディーやハーモニー、ドラマ性といった面が魅力の中心にあり、リズムセクションサイモン・フィリップスアンソニー・ジャクソンリズムセクションのアプローチもそれに準じたものになっています。そうアンサンブルの息のあい具合が素晴らしいのです。それゆえ、テクニカルなセクションのテンションの高まりも素晴らしく、明確にクライマックスを感じることができます。聴いた後の満足感という点では最強でした。個人的には、Dream Theaterの新作がイマイチだった穴をみごとに埋めてくれました。惜しむべくは、ギターが入ってないことですかね。

  • Megadeath / Dystopia
     メガデスなんてもう終わったバンドだと思っていたら、けっこう新作がすごかったという現象は何度かあったわけですが、このアルバムは、その中でも最大級ではないですかね。私は新作はRust In Peaceの再現だと感じました。彼らの攻撃性というのは個性的で、単純に「速い」とか「重い」のではなく、どちらかという起伏の少ない楽曲から感じられるシニカルさ、人間性を奪うような冷酷さにあります(いわゆるインテレクチュアルメタル)。しかも彼らはアルバムごとにメロディアスだったり、シンプルだったり、パンキッシュだったり、冷徹だったり、高密度だったりと、強調点を微妙に変えてきています。これまでのRust In Peace以降のアルバムを振り返ると、どれもメガデスらしいアルバムでありながら、その意味ではどれも異なるアルバムであったわけです。しかし、新作は私がRust In Peaceに感じた感動に極めて近い感情を提供してくれました。一曲目から、リフは実に平板でありながら、これでもかとカッコよく、二曲目でイントロからガツンとくるメロディが入ってくる展開は鳥肌が立つほどカッコいいです。キコのギターも実にいい仕事をしていて、デイブのイメージを完全に理解しているとしか思えないフレージングを連発してくれます。Rust In Peaceと違いがあるとすれば、Rust In Peaceの質の高さは、結果論というか、偶然の産物であった部分が多かったように感じます(あくまで相対的にではありますが)。しかし、新作のクオリティの高さは完璧に狙いが的中した結果であるように感じられる点です。となってくると、当然、自作も楽しみですね!正直言って、あまり期待していなかったんですが、予想を裏切って素晴らしい作品でした。